医療界の大谷翔平
「注射できるんだ~!私、血管細いって言われるだよ~」
そう言って、差し出された細くて、しなやかな白い腕に簡単に触れることができる。
私は、あらゆる口説き文句を並べようとなかなか辿りつけない、この「ボディタッチ」というステージに簡単に辿り着くことできる。
この仕事をしていて、良かったことの一つとも言える。
臨床工学技士という仕事は循環・呼吸・代謝の3つの部門に分かれているが、ほとんどは最後の「代謝」という部門に従事している。
この代謝というのは主に「透析」を指す。
駅前のビルなどに「○○透析クリニック」が入っているのを目にかかり、
「透析」というワード自体は知っているが、実際、どういったことがビルの一室内で行われているかは、知らない人も多いと思う。
「透析」は腎不全に陥った人が行う治療法である。
この「腎不全」は読んで字の如く、腎臓の機能が破綻している状況を指す。
腎臓の役割はいくつかあるが、主に体内に貯まった老廃物を体外に尿として、排出する役目を担っている。
そのため、腎不全に陥っていまった人は、尿が出なくなる。(中には出てる人もいるが、尿量は少ない)
体内に貯まった老廃物は最終的に血液へ移動するため、「透析」という行為は、この血液を一旦、体外へ取り出し、「人工的なフィルター」(これを人工腎臓と呼ぶ)で浄化し、体内へ戻すという作業を行う。
なので、血液を体外へ取り出すために、冒頭のエピソードであった「注射をする」を必要がある。
臨床工学技士はこの「注射する」行為、穿刺を行うことができる。
先ほどから、何度も「治療法」といっているが、「透析」したからといって腎不全が治るほのではない。あくまで本来あるべく姿の状態へ戻す作業を、行っているだけである。
したがって一回ぽっきりではなく、一度透析を行うと腎移植を行わない限り、死ぬまで一生行うことになる。
ちなみに透析を行う頻度だが、スタンダードな例として、一回の治療時間が4時間、それを週3回を行う。
時間的拘束があり、食事制限だけでなく、飲水制限もある。
認知度は低いがかなり、大変な病気である。
臨床工学技士は、機械の管理だけではなく、実際、患者と触れることができる。機械と人間の両方を観る二刀流で云わば、「医療界の大谷翔平」である。
現状は、担っている役割は大きいが認知度が低い職業である。
冒頭のような不純なアピールの仕方は良くないと思っているが、これも私なりの「臨床工学技士」の宣伝活動の一つである。
「臨床工学技士」って何ですの?
「臨床工学技士です。」
そう答えると、目の前にいるショートカットの女性は気味の悪い色をしたカクテルを一口飲み、
「リハビリ関係?」
「レントゲンの人?」
と再び、尋ねてきた。
繁華街にある、最近流行りとやらのスイッチバーでの出来事である。
週末であることから、店内は混雑しており、やっと思い出でナンパした女の子に対し、この医療業界でも稀有な職業を、一般の女の子にどのように説明すれば良いかと考えると、お酒を飲み過ぎていることもあり、少し気分が悪くなった。
臨床工学技士(英:Clinical.Engineer)
医師の指示の下に、生命維持管理装置の操作(生命維持管理装置の先端部の身体への接続又は身体からの除去であって政令で定めるものを含む。)及び保守点検を行うことを業とする者。「生命維持管理装置」とは、人の呼吸、循環又は代謝の機能の一部を代替し、又は補助することが目的とされている装置をいう(臨床工学技士法第2条)。 wikipediaより
このように説明すると、女の子にとって、さらに得体のしれないものになるので、
実際に説明するときは、「生命維持管理装置」、「保守点検を行うことを業とする者」を
さらにざっくりさせ、「機械の管理する人」って説明をする。
これでようやく、女の子の顔がすっきりし、次の話へと進めることができる。
「臨床工学技士」
この医療業界でも知らない人もいるほどマイナーな職業であり、説明するのに、毎回骨を折る。
しかし、知らない人が多いので、興味を持ってもらえることも多い。
実際、先ほどナンパした女の子にも、凄い興味を持ってもらい、話が盛り上がった。
その後、話は進み、そのまま..........
あとは皆さんのご想像にお任せします。